Salesforce プロダクトマネジメントディレクター
世界のプロダクト人材に聞くプロダクトマネージメント
2021.07.02
海外の第一線で活躍するリーダーたちは、どのようにしてプロダクトマネジメントに取り組んでいるのか。CPO協会によるインタビューを通して、彼らの経験やキャリア、プロダクトにかける想いをお伝えします。
Salesforceのプロダクトマネジメントディレクター、Aria Niazi氏 へのインタビューの後編です。前編では、パイプライン管理、セールスからプロダクトマネジメントへと至るユニークな経歴、プロダクトマネージャーとして信頼を構築する方法などについて聞くことができました。
後編では、リモートワークとパンデミックの影響、プロダクトマネージャーに求められる資質や、Salesforceのプロダクトマネージャー人材育成プログラムの話などについて伺いました。
Aria Niazi氏
Salesforce
プロダクトマネジメントディレクター
Salesforceに10年勤める中で、営業、技術営業、開発、プロダクトマネージメントと数々の役職を経験。現在はSalesforceのプロダクトの中でも、Sales Cloudを担当するプロダクトマネジメントディレクター。
注: 経歴、記事の内容はインタビュー当時(2021年1月)のものです。
― 前半では、技術営業からプロダクトマネージャーに移った時の話をしていただきました。そしてさらに、出勤型のプロダクトマネージャーからハイブリッド型のプロダクトマネージャーへと移行したそうですね。そこでどんな学びがあったのか、聞かせてください。
私は新型コロナ流行以前から何年もハイブリッドで仕事を続けています。最低でも週に1度は出社して、オフィスでのリーダーシップミーティングやチームレビューの調整に携わってきました。また、キックオフや、企画、仕事の記念日や祝い事などのイベントなどに合わせて出社の予定を組むこともありました。直接会うことで得られる一番のメリットは、チームの結束が強くなることです。私は、会って絆を深める時間が本当に大事だと思っています。
一方で、普段の仕事の大部分では、同時に関わる必要のあることは多くありません。例えばエンジニアは、オフィスで自分のデスクに私が来て質問に答えるよりも、Slackを通じてリモートで答えてもらう関係の方を望んでいます。プロダクトマネージャーとして私の目標は、チーム内のコミュニケーションの障害を取り除くことで、チームと同じ場所に常にいる必要はないのです。
私は、ハイブリッドモデルであることで不利になる点は全くないと考えています。私の意見ですが、新型コロナウイルスが終息したら、広くハイブリッドモデルが採用されることになるだろうと予想しています。
リリース計画のように、全員が一室に集まって考えを共有する必要があることもあるので、完全なリモート環境となっている今では、その難しさを感じています。特に新人のオンボーディングは難しいと思います。以前であれば、同じ席についてプロダクトのデモを見せたり、バグを一緒に調べたりすることができました。しかし、それを画面共有でするのは難しいです。オフィスにいれば、5分集まればすむことが、リモート環境だとあらゆることに時間がかかってしまいます。
そこでリモート環境でも、その場にいるかのように、同じ行動を取らなければいけないということを学びました。例えば、私がプロダクトのレビューをしていて時間が終わりに近づいた時に質問があったとしたら、終わったあとに質問した人に話しかけ「では、ちょっと一緒に座って、5分で説明しましょう」と言いますよね。だから、リモート環境であってもすぐにフォローアップをして、同じように行動するべきなんです。
― そのほかに、新型コロナウイルスによって、仕事のやり方にどんな影響がありましたか?
パンデミックの影響で大きかったのは、シャドーイングができなくなったことです。新任のプロダクトマネージャーにとって、セールスチームと同じ席について、実際にどのように電話をしているかを聞くことはとても貴重なことです。これは、オンラインではできません。なぜなら、オブザーブという形式をとると通話中に行動が変化することがあるからです。人が言っていることと、実際にやっていることとの間には、大きな違いがあるものです。オフィスであれば、私が誰なのか、何をしているのかを悟られずに、そして気にされることもなく、セールスのフロアでの仕事ぶりを見回ることができました。
― プロダクトマネージャーを採用する際に、どのような資質を求めていますか?
貪欲にチャンスを求め、学ぶことにとても関心があり、情熱を持っている人です。一生懸命になってプロダクトを動かし、中も外も学ぼうとする人がいいですね。
また、積極的に責任感を持って物事に取り組んでくれる人を求めています。私自身そうだったのですが、多くの新任のプロダクトマネージャーが、とても難しいと考えるところです。私も当初は、人を引っ張るのではなく、お願いをするという関係に頼っていたことを思い出します。しかしそうではなくて、「これは実現しないよね。よし、じゃあ、チームで話し合って別のものを作ろうか」と言ってその場をリードする態度を取るべきなのです。タフな会話を避けずに、解決策を模索していくことが重要です。
そして最後に、エンドユーザー(私の場合はセールスパーソンですが)に対して純粋に興味を持ち、共感してくれる人を求めています。エンドユーザーと会話することに興味を持ち、普段どんな生活をしているかを理解しなければいけません。そして、エンドユーザーが持っているスキルや、努力に対して敬意を持ってもらいたいです。
― では、プロダクトマネージャーを目指している人にはどんなアドバイスをしますか?
自分の仕事や人脈作りの方法には、ある程度、戦略的に取り組む必要があります。私がデモエンジニアだった頃、アナリストのデモはプロダクトマネージャーが同席することを知っていたので、率先してデモに参加していました。それが完璧な計画だったと言うわけではないですが、自分の仕事をきちんとこなし、そのプロセスで人間関係を築くことができました。
もう一つ役に立ったのは、AppExchangeのパッケージという、ユーザー向けプロダクトを担当していたことです。このプロダクトは、完全な開発サイクルを経る必要があったので、フィードバックを収集してプロダクトに何度も向き合い、ビジネス上の問題を解決する能力が私にあるということを証明できました。このようなプロセスを経たことで、プロダクトマネージャーの経験がない私にポジションを与えることに対して、安心感を持ってもらえたと思います。
― プロダクトマネジメントの人材育成のために、Salesforce社内ではどんなことが行われているのでしょうか?
Salesforceでは、プロダクトマネジメントの人材育成のため、APM(アソシエートプロダクトマネジメント)プログラムを実施しています。APMプログラムは、2年をかけた合計3回のローテーションで実施されます。参加者は大学を卒業したばかりで、前年の夏にはインターンをしていた人も多くいます。各事業部が、8カ月ごとにAPMに対して要請を出し、スキルセットや重点項目に基づいて、参加者とのマッチングを行います。
APMは、当社のさまざまなプロダクト間でのネットワークを構築することを目的として、ローテーションを行います。こうして2年間のプログラムを終えた後は、実にさまざまな視点を備え、社内の関係を構築していますから、自分の所属事業部以外のことも含め全社的視点で考えられるようになります。
APMには専任のマネージャーがついています。さらに8カ月間のローテーションを行うごとにローテーションマネージャーがつき、参加者たちを受け入れて、責任を与え、チームにも紹介します。
また、個人の育成セッションも実施します。プロダクト戦略、価格設定、パッケージングなど、プロダクトマネージャーに求められるさまざまな能力について、講師を招いて議論します。また、多くの役員会議のシャドーイングをする機会も設けています。
― 素晴らしいプログラムですね。日本からの候補者はいましたか?
さまざまな参加者がいますが、日本の大学からの参加者はいなかったと思います。APMにはさまざまなバックグラウンドを持った人が参加していますが、ほとんどの参加者が、アメリカの学校に通っています。
― 今の日本のソフトウェア事情について、どのような印象を持っていらっしゃいますか?
あいにく私は、日本の企業についてのインサイトはあまり持っていません。また、日本のエンタープライズ領域からのスタートアップやファウンダーもあまり見たことがありません。とは言うものの、サービスの観点から、細部にまで注意を払い、技術面での専門性が高いということは、私のこれまでの経験からうかがい知ることができます。
― 率直なご意見をありがとうございます。では、プロダクトマネージャーにお勧めの本や、そのほかにやるべきことがあれば教えてください。
私はいつも、ジェフリー・ムーアの『キャズム』を勧めるようにしています。プロダクトを市場に送り出すとはどんなことなのかが書かれています。私はセールス部門にいたときに読んだのですが、プロダクトマネージャーが読んでも、とても役に立つ本だと思います。
あと、あまりオーソドックスなやり方ではないですが、私に役に立った方法は、セールスのメソドロジーをプロダクトマネージメントに応用することです。セールスパーソンは、プロダクトマネージャーと同じように、ユーザーが困っていることについて知り、動機を理解しようとします。そのためには、さまざまな層を通じて真実を明らかにしていくことになりますが、その際に、セールストレーニングのメソドロジーはとても役立ちます。
― ありがとうございました。セールスの方法を応用するというのはとても興味深い話ですね。それでは最後になりますが、プロダクトマネージャーの仕事をしていて、最も満足しているのはどんなところでしょうか?
私が最も満足しているのは、常に変化し続けられるところです。あるリリースでは、開発者コミュニティで使用される極めて技術的なプロダクトを作ります。そして次のリリースでは、セールスマネージャー向けの分析プロダクトを作ることになったりします。そうやって全く新しい分野について学ぶ機会を得ることができるのです。
(編集:CPOA編集部)
Ariaさん、ありがとうございました。
CPO協会は今後も世界のプロダクト人材へのインタビューを行い、プロダクトとの向き合い方を学ぶ機会を提供していきます。
次の記事は暗号通貨の売買を行うデジタル通貨交換所取引所CoinbaseのプロダクトマネージャーであるChristina Petersen氏。ぜひご一読ください。Christina Petersen 氏 (前編)
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