海外の第一線で活躍するリーダーたちは、どのようにしてプロダクトマネジメントに取り組んでいるのか。CPO協会によるインタビューを通して、彼らの経験やキャリア、プロダクトにかける想いをお伝えします。
顧客管理サービスやエンタープライズアプリケーションを提供するSalesforceで、Sales Cloudプロダクトマネジメントディレクターを務めるAria Niazi氏は、セールス、ソリューション、プロダクトマネジメントの分野で10年の経験をお持ちです。
セールスからプロダクトマネジメントへと至るNiazi氏のユニークな経歴や、プロダクトマネージャーとして信頼を構築する方法についてうかがいました。
Aria Niazi氏
Salesforce
プロダクトマネジメントディレクター
Salesforceに10年勤める中で、営業、技術営業、開発、プロダクトマネージメントと数々の役職を経験。現在はSalesforceのプロダクトの中でも、Sales Cloudを担当するプロダクトマネジメントディレクター。
注: 経歴、記事の内容はインタビュー当時(2021年1月)のものです。
― SalesforceとNiaziさんの仕事内容について教えてください。
Salesforceは、ユーザーが全てのタッチポイントで顧客とつながることができるようにサポートするプロダクトです。セールスフォース・オートメーションのツールから始まって、今ではカスタマーサービス、マーケティング、コマース、ITまでカバーしています。
私は、Sales Cloudのプロダクトマネジメントディレクターとして、パイプライン・エクスペリエンスに関するあらゆることを担当しています。ユーザーが、商談管理から、チームセールス、売上債権の分割に至るまでの全行程(パイプライン)を管理することをサポートするものです。個々のセールス業務をサポートするだけでなく、ユーザーと協力して、セールスチームを最適化するためのベストプラクティスの導入もしています。さらに、プロセスを改善し、インサイトを提供するためのAI構築にも携わっています。
― AI構築まで関わるというのは面白いですね。そのAIは、パイプライン管理とどのように関連しているのでしょうか?
私たちは、まずユーザーがパイプライン管理でどんなところに困難を感じているのかヒアリングして、インサイトを収集します。AIチームは集められたデータを分析して、AIを使ってニーズを満たすのに適したデータセットを当社が持っているかを調べます。その後は大体、パイロット版を展開し、セールスパーソンが、すぐに理解して行動を起こせるようなユーザーエクスペリエンスにAIを導入する設計を考えていきます。
― では、Niaziさんが、プロダクトマネジメントに携わることになるまでの経緯はどんなものだったのでしょうか。
あまりオーソドックスではないスタートでしたね。最初はSalesforceの内勤営業部門で、インバウンドの見込み顧客にアプローチする仕事をしていました。その後昇進して、アウトバウンドコールを行うようになりましたが、これは今思い返しても過去に経験してきた仕事の中で特に大変な仕事でした。しかし、そういった経験のおかげで、セールスパーソンへの高い共感力を養うことができました。
私はもともとテクノロジーに興味があって、Salesforceのプロダクトについてもっとよく理解したいと思っていました。社内の学習用リソースを利用したり、終業後にスクールに通ったりして、独学でコーディングを身に付けました。その結果、デモチームに移り、プロトタイプを手がける仕事につくことができました。そうやって1年半バックエンドで働いていると、今度は、顧客とやりとりをしたいと思うようになりました。
そんな時、エンジニアリングと接客のどちらにも携わることができる技術営業の仕事を見つけました。技術的な質問に答えたり、デモを作ったりするのと同時に、セールスサイクルに関わり、ユーザーとのミーティングにも参加しました。技術営業として、たくさんのユーザーに会い、どのようにビジネスをしているのか聞かせてもらうことができました。現場に足を運び、その会社ではどんな営業をしていて、どんな難題を抱えているのか、私たちはどんな支援ができるのかを確認する。まさに、そこで私はプロダクトマネージャーと同じようなことをしていたというわけなんです。その時初めてプロダクトマネジメントの片鱗に触れたと言えると思います。
その後、一緒に仕事をしたことのあるプロダクトマネージャーから、私もプロダクトマネージャーのポジションに応募するように勧められました。私にはプロダクトマネジメントの経験はなかったのですが、プロダクトやユーザーのことならよく理解していたので、チャレンジしてみようと思ったのです。今から思えば、その時の私はまだ発展途上でした。しかしそれまでに、プロダクトマネージャーとして適切な土台はすでに備えてきていたと思います。
― なるほど。では、プロダクトマネージャーになってから、学ばなければならなかったことはどんなことでしたか?
まず、大きな違いはサポートするユーザーが、数人から数千人に増えたことです。最初の頃は、一週間にどれくらいの数の問い合わせが集まってくるのかすら知りませんでした。いつも逆の立場で仕事をしていたからです。
そこからプロダクトマネージャーとして次のステップに進むには、本当の意味で優先順位の付け方を学ばなければいけませんでした。自分の時間の使い方もそうですが、仕様やバグに優先順位をつけ、絶対に手をつけられないことは断らなければいけませんでした。ユーザーと接する仕事では、いつでも問題解決のために動き、断るなんてことはほとんどないわけですから、このような優先順位付けが必要になってくるというのは、思ってもみないものでした。
また、スクラムチームや、デザイナーや、ドキュメントライターとの連携の仕方も新しく学ばなければいけませんでした。熟練のエンジニアが大勢いるチームに入ったので、周りからサポートを受けられ、色々と教えてもらえたことがとても大きかったです。
― 技術営業としての経験があったおかげで、プロダクトマネージャーとしての活動がやりやすいということはありましたか?
ユーザーとの接し方が深く身に付いていたことです。話し方や、質問の方法、そして何よりも、ユーザーが当社のプロダクトをどのように使っているのかをよく知っていました。だから、プロダクトマネージャーになったばかりの頃でも、他のプロダクトマネージャーたちのつくるデモは、実際の使われ方とは全然違う想定で作られていることに気づくことができました。
また、Salesforceのポートフォリオ全体についてもよく理解していました。プロダクトの側にいるときは、その仕様や、プロダクトが実際にどのように使われているかということに深く向き合います。あらゆるプロダクトについてよく知っていることは、自分の取り組んでいる仕様をどうやってプロダクトの全体像の中に当てはめていくかを考える助けとなりました。
― 顧客との関係で培ったスキルを活かしたというのはとても興味深いですね。では、プロダクトのロードマップについて、ステークホルダーとはどのように協力していますか? また、そのコミットメントはどのくらい固いものなのでしょうか?
プロダクトロードマップに対するコミットメントは、リリースごと、プロジェクトごとに変わります。未知のことが起こる可能性は常にあるし、それでコミットメントが先延ばしになることもあります。そういう場合、メッセージをステークホルダーに伝えるのはプロダクトマネージャーの仕事だと思います。
何かにコミットする場合には、関係者全てから話を聞くようにしています。しかし、1回のリリースでできることは限られています。そのため最終的には、その時どれほど余力があるかに従って、エンジニアリングマネージャーが決断をします。どういうことかというと、あらゆる機能について優先順位をつけた上で要件を書き出し、その後エンジニアリングが線引きをして実現可能なものに取り組むということです。それを受け入れるには、十分な信頼関係を築いておかなければいけませんし、全員が納得する必要があります。その上で、結果に満足できない場合は、リソースを増やすか、MVPの要件を見直すことになります。
― そこで、PMやUXはどのように関わってくるのでしょうか?
ある時点で、もしMVPに線引きがされていたら、機能をGAにするか、パイロットにするか、それともリリースを控えるか、納得できる判断をしなければいけません。プロダクトマネージャーとしての私の役割は、プロダクトの長期的なビジョンをエンジニアリングが理解できるように手助けをすること、そして、下された技術面での決定とそれによる長期的な影響とについてUXが理解できるように手助けすることです。そうやって、やろうとすることのバランスをとるようにしています。
― 優れたプロダクトマネージャーになるための資質とは何だと思いますか?
関係を築くことが重要です。プロダクトマネージャーのことをビジネスにおけるCEOのようなものだと言う人もいますが、私は必ずしもそうではないと思います。なぜなら、予算編成に関しては、それほど大きな権限はなく、管理することができないからです。しかしプロダクトマネージャーは、CEOのようにチームの文化を作ることはできると思います。
関係者の全てと確かな関係を築く必要があります。社内のほかのプロダクトチームに助けを求めることもあります。また、セールス部門とも協力して仕事をしなければいけません。この点では私の経歴が大いに役立ったと思います。実際にユーザーとなるセールスマネージャーに電話一本かけて、「こんなものを作っているんだけど、意味あるかな。ユーザーが欲しいと思うだろうか」と聞くことができるからです。
また、プロダクトマネージャーは、自分のプロダクトに対してちょっとこだわり過ぎるくらいでなければいけないと思います。何が足りないのか、後れを取ってはいないかと、常に考えるのです。プロダクトのことを徹底的に理解していれば、落とし穴になりそうなところが残らずわかってくるので、「もっともっと」とこだわらずにはいられなくなってきます。プロダクトマネージャーはそのプロダクトに対するこだわりのおかげで関係者からの信頼を得られます。プロダクトマネージャーが合否判定基準に従ってリスクを特定できれば、後工程に入ってからエンジニアリングで頭を悩ませずにすむからです。
最後はビジョンです。目前のことに集中して、仕事を片付けていくとともに、いつも場当たりの対応をすることにならないように、長期的なビジョンを持つことはとても重要です。
後編では、リモートワークとパンデミックの影響、プロダクトマネージャーに求められる資質や、Salesforceのプロダクトマネージャー人材育成プログラムの話などをお届けします。
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